朗読用台本 「虫を飼う男」

  虫を飼う男 作:マガサシロウ


 私がまだ幼かった頃、
父親の死体から、虫が這い出してくるのを見ましてね。
それから始めたんですよ。
何って、飼育ですよ。虫を飼っているんです。
どこでって、この身体の中で。

 いやいや、変な顔をされるのも無理はないでしょう。
ですがやってみると面白いものでしてね。
まあ見てくださいよ……あ、ほら、一匹出てきた。
まあまあそう驚かないで。よく見ると可愛いでしょう。
コツはですね、自分の身体を半分ほど腐らせておくんです。
すると親が卵を産み付けにくる。
後は自然に任せるというか、ほったらかしですね。

 そりゃあ見方によっちゃ気持ちが悪いかもしれませんが、
でも考えてみてくださいよ。
生まれて、成長し、やがてはこの身体を巣立っていく。
生命のサイクルが間近で、本当にごく間近で見られるんです。
すばらしいとは思いませんか、ねえ。


 男はそう言いながら、灰色がかった皮膚の上を這う
何かの幼虫をいとおしそうに眺めていた。


(2018年9月20日 YOMINOMI ! 三軒茶屋 (御茶ノ水TRILOGY) にて発表)